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「初めから、今回はどうなるか分からないと思って連れてきました」 グランプリ(GP)シリーズ第3戦となる中国大会のショートプログラムのあと、山田満知子コーチはそう漏らした。 「送り出すのが、もう可哀想でたまらなかった」 6分間練習のときに、村上佳菜子は「どうしよう、どうしよう」「出来ない、出来ない」と脚をブルブルと震わせていたという。村上佳菜子がそこまでナーバスになった理由は靴にある。9月に替えた靴が今も足に嵌らないときが多く、足の乗せる位置がまだ決まらない状態だった。とうてい自信を持って試合に臨める体制ではなかった。 靴の調整が遅れた分、練習もまた出遅れた。今季は新たにフィリップ、トゥの3回転コンビネーションをプログラムに取り入れているが未だ完全に仕上がってはいない。また苦手とされるジャンプ、トリプル・ループをショートで1回、フリーで2回入れるというプログラム構成に対してのプレッシャー。そして朝の公式練習の際、靴とフィットさせるために足に巻いたテーピングの具合がうまくなかったことから質のいい練習が出来なかったことへの懸念。こういった複合的な不安感が、6分間練習のときに一気に彼女を襲った。 「6分間、とても怖くて。曲が掛かるのも怖かった」 それでも、彼女はひとりリンクの中央へ向かい「Violin Muse」の音楽の始まりを待った。 演技直後、堪えきれず泣き出した。「うまくいかなかった」からではない。ジャンプの転倒もなく、抜けることもなく演技を無事に終えられた安堵感、それがあの涙の理由だ。そこまで追い込まれていたということだ。取材陣の待つミックスゾーンに姿を見せたときには、もう涙は無かった。気丈に質問に応え、笑顔を見せて翌日のフリーの意気込みを語り、アスリートとしての逞しさを見せた。 5日のフリー・スケーティングでも心の葛藤は続いた。 「転倒したときに、心の中で落ち着け、落ち着けって思いながら続けました」 「フリーの前の6分間練習では跳べていたのだから大丈夫と思って」そう気持ちを強くしながら「Violin Concerto」の演技を続けた。世界選手権が終わってから練習してきた綺麗なスケーティング、大人っぽい滑りをすることを忘れないようにしよう、と。 今季の村上佳菜子は幾つかの新しい挑戦をしている。悲哀や苦しみといった初めての表現の仕方をするために、創作舞踊の人から学んだこと。あえて確かな技術が求められるスローな曲目を選んだこと。その為にスケーティングを基礎からやり直したこと。大人の演技をしたい、そのために今季は脱皮を図っている。苦手なジャンプに敢えてトライすること、それは全てソチを見据えてのことだ。 「いいときもある。悪いときもある。将来のことを思うと苦手だからと逃げないで入れていきたい。覚悟を決めて頑張っていこうと思う」と山田満知子コーチは語った。 先シーズン、グランプリファイナルで右角に立つという偉業を達成し、華々しいシニアデビューを飾った村上佳菜子。世界選手権でも初出場にして8位に入賞するという健闘ぶりだった。シニア2年目、思いがけず今季は彼女にとって試練の年になった。幼い頃からスケートエリートで順調に来た彼女にとって、今は茨の道なのかも知れない。が、彼女の挑戦が実を結んだとき、ソチまでのロード・マップにまた新たな軌跡を残せるはずだ。 中国大会が終わった翌日7日、彼女は17歳の誕生日を迎えた。が、まだ17歳。時間はまだまだ有る。 photo/Sunao Noto text/Junko Kuroo |
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